Israel Builds Another Wall


もうひとつの壁をつくるイスラエル
2004年7月17/18日
M. Shahid Alam


     わたしが壁を作る前,わたしは何を壁で閉じ込めるのか,
     あるいは壁で何を追い出すのかを知りたかった.--Robert Frost


2004年7月9日,国際司法裁判所における15人の判事のうち14人は,イスラエル隔離壁に関する「勧告的意見」を言い渡した.それは,パレスチナ人を壁に,さらにその向こうに追いやるイスラエルの決定に対する世界中で広がる道徳的怒りを正確に反映したものであった.ふさわしくも,--そのうえ,わたしたちにとっての恥さらし--唯一の反対意見はアメリカ人 Thomas Buergenthal によるものであった.

イスラエルによって建設中の壁,「エルサレムの中およびその近辺を含む占領下のパレスチナ領土における占領権力,そしてそれに関連した体制は国際法に反する」と判事は断言した.

判事は「壁建設の中止,すでに建設された部分の撤去,壁建設を支える法的体制を無効とすること,および占領区域におけるパレスチナ人がすでに被った損害に対する補償する「義務がある」ことをイスラエルに対して通知した.
最後に判事は,「壁建設によってもたらされる違法状態とこれに関連した体制を終結させるためには,さらにどのような行動が必要とされるかを,この勧告的意見を考慮に入れたうえで検討する」ことを国連--特に総会と安保理--に対して求めた.

この暗い時代に,アメリカの権力は--予測可能な将来に対して--取り返しのつかないかたちで自らをパレスチナ人に対抗するすべてのシオニストの目的に縛りつける時,こうした司法的意見の道徳的明確性が希望と,独裁者たちが組織的に踏みつける男と女の名前のもとで陰鬱な技術を実践する新たな独裁政治に対して彼らの戦いを維持することが必ずしも容易ではないふつうの人間への激励をもたらすことは,防ぎようがない.合州国とその同盟者からの集中的圧力に対抗して,EUからの5人を含む14人の判事は,その悪意のある目的において,その破滅的影響において,その長い歴史において,そして戦争に火をつける可能性において最近では類するものがない占領行為に対する正義の普遍的原則を適用することを決定した.

それでもなお,悲惨であるのと同じくらい予想された通り,イスラエルにおけるシオニスト合州国におけるその同盟者--キリスト教徒とユダヤ人--は国際司法裁判所の「勧告的意見」に対して,アメリカ人の一部分--キリスト教シオニストであるとみずから公然と認めたうちのいくらかと白人至上主義者--を除いてはほとんど説得力をもたない空虚な決まり文句でこたえた.しかし,ほとんどのアメリカ人はパレスチナイスラエル対立を作り出すようなウソつきで悪意をもったメディアによって,パレスチナ人を憎むようにうまく説得されてきた.パレスチナ人はテロリストでありイスラエル人を追い出そうとする反ユダヤであり,イスラエル人は脅威と危機にさらされた無実の犠牲者である,と.

イスラエルアメリカ中で響き渡る論説と演説において,無実のイスラエル市民をパレスチナ人の原始的暴力から守ることだけを目的とした「安全フェンス」を--壁ではなく--,包囲されたイスラエルは建設しているのだと,多数のイスラエル擁護者は抗議している.2004年7月13日の「ニューヨークタイムズ」紙のコラムにおいて,元イスラエル首相は,この「安全バリア」は「一時的なもの」であり,それは「西岸地区の12パーセント以下」しか伸びておらず,そしてそれはパレスチナ人を殺すものではない,それはイスラエル人の命を救い,パレスチナ人の「生活の質」を悪化させることはほとんどない,と説明している.彼は単純ではあるが,もちろん,イスラエル首相は「低下した」生活の質がより高い死亡率につながることが認められない.死のキャンプで毒ガスを使って殺すよりも洗練された殺し方があるのだ.

もし国際連盟が,ナチスユダヤ人の強制収容所への収容を含む民族浄化キャンペーンの早い段階において,その合法性について判断を下すようにもとめる道徳的勇気をもっていたならば,ユダヤ人収容は国際法に違反しており,すぐに中止せよという「勧告的意見」に対してナチスはどのような反応をとったであろうか.

ナチスは自分たちを守るために,いくつかのある議論のうちのひとつを選んだかもしれない.あからさまな人種差別の時代において,彼らは自分たちのドイツ人によるドイツの排他的所有という歴史的権利--世界精神によって伝えられたものとして--に訴えたかもしれない.つまり,ドイツにおける侵入者としてのユダヤ人はもともとの,そして正当な所有者の場所を確保するために取り除かれなければならない,というものである.ナチスは防御線をはり,イギリスがユダヤ人を対ドイツ戦における第五列(後方攪乱,スパイ--訳注)として使うというはっきりとした情報を受け,ユダヤ人の「再配置」は一時的な手段であると主張したかもしれない.あるいは,これは集めたユダヤ人を彼らのためにある地区に分離しておき,そこでは過去には不可能だった,「ハラハー(ユダヤ教の慣例法規)」の自由な閲覧が可能になるような人道的な移動であると主張したかもしれない.彼らは,過去のちょっとした間違いの修正をしているだけだった.そして,イギリスとアメリカによってたきつけられた反ドイツ主義の新たな波によって駆り立てられた判事が,彼らを選び出し,彼らを襲っているのだと主張したかもしれない.

国際司法裁判所の判決に対する反応したシオニストの非難の大合唱には,恐ろしい皮肉がある.時代の永遠の恥辱にむかって,ユダヤ人が強制収容所--彼らのほとんどはそこで死んだ--へと移送させられた時,彼らは同盟国,すなわち自称世界良識の保持者からほとんど助けを得られなかった.合州国ユダヤ人移民に対しては門を閉ざしていた.たしかに,ドイツのジェノサイド計画の野蛮性について常設裁判所からの判決はなかった.ユダヤ人はナチスのテロによって自分たちを死に至らしめた世界に対して,苦痛に満ちた,もっともな非難をした.有効な物質的または精神的支持を与えた裁判所も政府もなかったのだ.

イギリスがパレスチナ人の土地をシオニストに与えたときも,パレスチナ占領後にヨーロッパのユダヤ人が民兵を組織し,パレスチナに入植することをイギリスが許容し,パレスチナ人を追い立てる準備をしていた時も,誰もパレスチナ人を支持しようと立ち上がらなかった.1948年に80万人のパレスチナ人が故郷から出て行くように脅迫され,帰還権を剥奪された時も,西側世論は声をあげなかった.パレスチナ人が西岸地区とガザでイスラエルによる占領に対する抵抗を始めたときも,西側世論は支持しなかった.かわりに,イスラエルからの合図を受け,西側諸国はパレスチナ人にテロリストというレッテルを貼り,彼らの国民としての存在を認めることを拒否した.破壊,粉砕,ほとんど無防備の人たちからの略奪というイスラエル占領の残酷な面を明らかにした第一次インティファーダで始まる過去十年のなかで,初めて西側世論の道徳的憤りは起こった.

それでも今日のシオニストは容赦なくこうした西側世論を,ユダヤ人という理由で彼らを選び出し非難している反ユダヤ主義として非難している.非常に長い間にわたって,シオニストパレスチナ人にたいして罰を受けることなく行動してきたのは,彼らがホロコーストを西側世論の非難に対して自分たち自身を守るために使うことにおいて成功してきたからである.それは占領を犯人のいない完全犯罪へとかえる.しかしながらもっと都合のいいことは,犯人が,彼らが犠牲にした人たちによる第一の犠牲者になったことである.
しかしながら,最近,世界の良心がイスラエル占領によるパレスチナ人に押し付けられた耐え難い条件に気づき,立ち上がり始めた.世界の良心は数多くの方法で支持を表明している.国際連帯運動は,死の危険をおかしてパレスチナ人住宅の破壊を阻止している.ベルギーの裁判所はシャロン戦争犯罪で裁こうとしている.占領は彼らが耐えてきたアパルトヘイトよりもひどいと思いだす南アフリカ人.イスラエル学界を拒否しようという運動の先頭に立つ学者たち.イスラエル経済への投資に抗議する学生.世界規模でのイスラエルによる占領に対する行進,抗議,活動.そして今や,国際司法裁判所が大きな声ではっきりと,イスラエルアパルトヘイト・ウォールに対して判断を下した.

さらに,イスラエル人の中にも声をあげる人が増えてきている.その中には,直接に武力を行使するために占領の醜さを目の当たりにする軍人すら含まれている.数百人のイスラエル兵が,実刑判決を受ける危険をおかしてまで西岸地区とガザでの「任務」を拒否している.他のユダヤ人もイスラエルはその魂を失いつつあると警告し,占領は若いイスラエル人男女を残忍にし,それは彼ら/彼女らの家族を,配偶者を,そして子どもを残忍にするという声も大きくなりつつある.ますますイスラエル兵は自分たち自身の生活を取るようになってきている.これは,ヨーロッパの本国から数千マイルも離れたところで,わずかな兵士と雇われた現地人によって維持されうるような昔の植民地的占領ではない.すべてのイスラエル人--さらに世界中にいる大きな割合のユダヤ人--は,この占領に参加しているのだ.

世界がイスラエルをわれわれの時代におけるナチスドイツの道徳的等価物と見なし始めるかもしれないという危険は存在するのだろうか?この「われわれの時代における道徳的等価物」は,イスラエルナチスドイツのすべての犯罪を再現することを必要とはしない.かわりに,われわれの時代における道徳と制約との比較において,「劣等人種」の絶滅が白人ヨーロッパ人の権利と見なされていた,より野蛮な時代にナチスドイツが行ったことと同じところまでイスラエルが行ってしまうのかどうかと,世界が尋ねるだろう.

イスラエルが,パレスチナ人をいくつかの悲惨なバントゥースタン(アパルトヘイト時代の南アフリカにおける黒人居住区--訳注)の閉じ込めることで,パレスチナ人を壁の内側に閉じ込めることを目的とした隔離壁を建設する時,目には見えないが,構造においてまさしく強固であるもうひとつの壁を同時に作っているようだ.それはイスラエルを人間社会から,その法から,そしてその希望と共感からも切り離すことでイスラエルを壁の外に追い出すだろう.今後,世界はイスラエルによる占領の終了を見ることができないかぎり,ますますこの質問を尋ねるだろう.


M. Shahid Alam はNortheastern大学の経済学教授
http://msalam.net
m.alam@nue.edu