An Iraqi's Perspective : A Letter to George W. Bush

あるイラク人の視点
ブッシュ大統領への手紙


2005年2月24日
Ghazwan Al-Mukhtar


ブッシュ様

2003年の感謝祭の日のバグダッドへの電撃訪問において,あなたがふつうのイラク市民と会うことも話すことも許されなかったことは残念なことでした.あなたが面会したイラク人は米国が就任させた傀儡政権のメンバーであり,米国の戦車に続いてイラクにやってきた人たちでした.ですから当然のこと,あなたが聞きたがっているだろうと彼らが考えたことを,彼らはあなたに話したのです.さらに彼らは,イラクにおけるあなたの他のアドバイザーと同じように,隔離され,保護された安全な「グリーンゾーン」で生活していました.彼らはほとんど一般市民とは接触がありません.
もしふつうのイラク人と話す機会があったのであれば,あなたのアメリカ人,あるいはイラク人アドバイザーから受け取った意見とは違った意見を聞くことになったことは確かです.ふつうのイラク人市民のひとりとして,気づくと米国がはまっていたイラクの窮地についてのわたしの意見を述べたいと思います.

1年以上前,あなたはイラク国民に向かって「拷問部屋と秘密警察は永久に消えた」と言いました.その時,わたしは本当にあなたを信じたかったのです.のちに,あなたの米兵が2003年5月からイラク人を拷問していたことをわたしは知りました.そして将軍はそれについて知っており,このような人権蹂躙についてより高い部署への報告書を書いていたことも知りました.大統領,疑わしきは罰せずということで,あなたのアドバイザーは事実をあなたに伝えていなかったのだと仮定しましょう.

あなたは拷問の事実を知ることにはなりましたが,犠牲者には謝罪することなく,かわりに7人の「ろくでなし」だけに責任を負わせました.これはイラクにおけるあなたの部隊による拷問や人権侵害を止めはしませんでした.米国が管理する収容所におけるイラク人に対する拷問が行われていることを確認する報告が今でも出てきています.あなたのアドバイザーは,イラクから数千マイル離れたアメリカの安全を守るためには拷問が必要である,とあなたにアドバイスすることは間違いありません.

「有志連合」のパートナーは,なにひとついいことはしていません.英軍はイラク人拘束者を拷問しています.人権報告書によれば,あなたの政府によって創設され,訓練を受けている「新イラク軍」が,今度はイラク人を拷問しています.「解放」以前にわたしたちはひとつの悪の力によって拷問される一方で,今では少なくとも3つの悪の力によって拷問を受けています.あなたの宣言とは反対に「拷問部屋」が永久に存在することになるように思えます.

大統領,言わせてください.7人の「ろくでなし」に責任を負わせることは,世界中のすべての独裁者が拷問と人権侵害の責任から逃れるための判例を作るだけなのです.あなたと同じように,すべての独裁者は自分の部隊の7人の,10人の,あるいは20人のろくでなしに責任を押し付けようとするでしょう.良心的なアメリカ人法学者はこのようないい訳は非常に危険であるとあなたに述べ,彼らは公平な法廷に政府の代理人としては立たないでしょう.

行動はレトリックではなく,結果によって判断されます.あなたの米兵と同じように,ふつうのイラク人は命の危険にさらされています.あなたのイラク占領の結果,イラクは今なお無法状態です.それは,ふつうのイラク人の生活を悲惨なものにしています.わたしたちは国中をうろつきまわっている犯罪集団によって誘拐されるのではないかと,外に出るのも怖いのです.神経質になった,引き金を引くことに快感を感じてしまう(trigger-happy)あなたの兵士たちによって銃撃されるのではないか,あるいは米部隊を狙った爆弾によって殺されるのではないかと怖れています.

無辜のイラク人は,自分たちを守るために装甲兵員輸送車や装甲車を使うことはありません.犯罪集団によって殺された無辜のイラク人よりも,あなたの部隊によって殺されたイラク人の方が多いのです.大統領,おそらくあなたはご存知かと思いますが,あなたのtrigger-happy 兵士は不法な殺人によって起訴されることのない自由を楽しんでいます.わたしが目撃したところでは,こうした殺人者は自らの行為に対して,「すまない」と言うために立ち止まることすらありません.

あなたが「解放した」イラクでは,30%だった失業率は今や60%であることを思い起こしてください.あなたの行動は仕事から「解放された」イラク人を倍にしたようです.

米議会は2004年6月終わりにイラクに関する報告書をまとめました.その報告書では2003年5月(侵略の直後)には,1日16時間以上電気が来ていたのは18の県のうち7つだったと書かれています.報告書によれば,侵略の1年後の2004年の5月には1つの県に減ってしまったのです.今や,人口500万人のバグダッドでは1日6時間も電気が来ていれば良いほうです.

公共医療は占領の22ヶ月間を通じて,悪化の一途をたどりました.病院ではいまだにもっとも基本的なものすらありません.薬はありません.治療や検査を求める患者は減る一方です.なぜなら治安状況が悪く,道路が封鎖されているからです.医者は病院で身の危険を感じる状態です.なぜなら,自分たちのフラストレーションを貧しく,無力な医師にぶつける患者の親戚によって攻撃されるからです.

安全の欠如と警察の非効率によって,犯罪集団は身代金目当てに数百人の医師を誘拐しました.脅迫されている医者もいます.結果として,数百人の有能な医師が国を去り,それはさらなる公共医療の悪化につながりました.大統領,こうした有能な医師は独裁者の圧政から逃れることはなかったのです.しかし,あなたの「解放した」イラクにおける混乱と無法状態からは逃げたのです.

記録によれば,トルコを通って1日あたり数十万バレルの精製されたディーゼル燃料をイラク政府が密輸していました.そしてそれをあなたの政府は知っていたのです.こうした証拠が示していることは,イラクの精製施設は認められた量を輸出する以上の過度な精製能力を持っていたということです.

イラク「解放」の最中,精製施設は1991年と同様に標的にされることはありませんでした.だから,損害は最小にとどまったと考えます.なぜ,「解放」から22ヶ月もたった今でも精製施設は修理されていないのか,わたしには不思議です.なぜイラクは精製された石油製品をトルコ,クウェートそしてサウジアラビア,驚くことにはイスラエルからも輸入し続けているのか,いまだに理解できません.わたしたちイラク人は,得策ではないのに,なぜガソリンを輸入するためにお金を使っているのか知る必要があります.かつては輸出国だったのです.それはハリバートンとKBR(ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート)が数ヶ月にわたってガソリンを輸入する必要があったからだととわたしは思うのです.

1991年には,イラクの精製施設は爆撃によって深刻な損害を被りました.わたしたちイラク国民は制裁にもかかわらず,そしてハリバートンから支援をうけることもなく,わずか数ヶ月で修理しました.そして13年間にわたって施設は稼動し続け,輸出していました.イラク国民は1991年に壊れたすべての建物を1年以内に再建しました.「解放」後の22ヶ月間,なんの再建努力もなされていないことを見るにつけ,わたしは悲しくなります.

大統領,1991年に米国はイラクを「前工業」時代に戻してやると断言しました.そして,たしかに爆撃と破壊によってほとんどそれに近い状態になってしまいました.イラク国民は爆撃されたものを再建して世界を驚かせました.再建をうまくやり,新しい計画を制裁にも関わらず実行していました.ひとりのイラク人として,1991年にやり遂げたことは,とても誇りに思います.わたしたちイラク人は再建のスタンダードをつくったのです.「解放」後の22ヶ月間,誠実さと再建活動の欠如を見て,アメリカは悲惨なまでにこのスタンダードを満たすことに失敗したとわたしは思いました.

13年間にわたってイラク人は政府による食料配給のもとで生活してきました.政府は1日あたりわずか2200キロカロリーをわたしたちから奪い,そして供給してきました.イラクの「解放」された政府は,解放後に1日あたり2200キロカロリーを今でも供給しています.

イラク政府は1ヶ月あたりおよそ1億5千万ドルを食料輸入と配給のために使っていたのです.あなたの連合暫定当局の調査官によれば,1年で88億ドルが使途不明となっています.88億ドルといえば,すべてのイラク国民を60ヶ月にわたって養うのに十分です.この無責任な財政と透明性の欠如を見ると,「解放」の目的とはなんだったのかと思わざるを得ません.イラク国民は目隠しをされて強奪にあっている,と言うのはとてもつらいことです.わたしたちは自分たちの富からも「解放」されているのです.

大統領,わたしたちのトラウマを背負った子どもたちは,あなたの「解放」によって自分たちの将来まで何が起こったのか,けっして忘れることはないでしょう.あなたの子どもたちは,トラウマを背負ったわたしたちの子どもとやっていかなければなりません.あなた方の子どもたちは,すべての損害と盗んだお金に対する返済をしなければならなくなることは確かです.代償は高くつくでしょう.

わたしは,あなたにバラ色の写真を与えるようなアドバイザーにはなりたくありません.彼らは大量破壊兵器について,アルカイダとのつながりについて,9.11との関連について,イラク人は部隊を「解放者」として歓迎する等々,あなたに話したことでしょう.そしてわかったことは,彼らはあなたに真実を話してはいなかった,ということです.他の人の意見に耳を傾ける時です.

わたしたちは「自由」や「民主主義」を理由にアメリカを嫌っているのではありません.わたしたちはアメリカを嫌っているのではありません.わたしたちの国の無辜の市民に対するアメリカの犯罪,破壊と惨劇を憎んでいるのです.


敬具
Ghazwan Al-Mukhtar
占領下のイラクバグダッド