The Iraq Quagmire: The Mounting Costs of War and the Case for Bringing Home the Troops (Foreign Policy in Focus)

イラクの泥沼:膨れ上がるコストと部隊を米国に戻す理由
Phyllis Bennis
Erik Leaver
IPS Iraq Task Force
2005年8月31日


主要な事実
本稿「イラクの泥沼」は膨れ上がるコストのもっとも包括的な推定であり,イラク戦争の米国,イラクおよび世界にとっての帰結である.ここに述べられた主要な事実は,人的および経済的コストが減少するだろうとブッシュ政権が主張した,イラクにおける選挙以降も続く戦争のコストを測る明確な数字である.


ベトナムのこだま
現在の推定によれば,イラク戦争のコストは7000億ドルを超える.ベトナム戦争のコストは現在のドルで計って6000億ドルであった.
イラクにおける作戦費用は2005年で1ヶ月あたり56億ドルと推定される.8年にわたるベトナム戦争の1ヶ月あたりのコストはインフレ調整済みで51億ドルであった.
イラクおよびアフガニスタンに現在のレベルで駐留すると,連邦財政赤字は次の10年間で2倍になると推測される.
2001年以降,米国はイラクアフガニスタンに100万人以上を配置している.
米国における国民一人当たりのコストはこれまでのところ727ドルであり,イラク戦争は過去60年のなかでもっとも高くつく戦争となっている.
イラク戦争で殺されたジャーナリストは報告されているだけで66人であり,これはベトナム戦争時の63人を上回っている.


新たな泥沼
21万人以上の州兵と33万人以上の兵士がイラクアフガニスタンで任務についている.
平均軍務期間は460日である.現役部隊のおよそ3分の1,34万1000人の男女が2ヶ国,あるいはそれ以上の海外任務に従事している.


イラクにとってのコスト
米国はイラク中で106の軍事基地をコントロールしている.2005年度,議会は恒久的基地建設のために2億3600万ドルを予算に計上している.
少なくとも2万3589人から2万6705人のイラク市民が殺された.
2005年1月の選挙以来,イラク治安部隊のメンバーは1ヶ月平均155人が死亡しており,これは選挙前の平均65人を上回っている.
自殺攻撃は,2003年の1ヶ月当たり20件,2004年の48件から,2005年の最初の5ヶ月で50件に増加している.
米国主導の部隊が1ヶ月当たり1600人を殺害または拘束しているにもかかわらず,イラクレジスタンス部隊は1万6000人から4万人の勢力を保っている.


そして世界はより危険になった
「重大な」テロ攻撃は,国務省によれば,2003年の175件から2004年には655件に増加している.
イラク戦争は国連の権威と信用を失墜させた.



イラク泥沼の詳細


I.米国にとってのコスト


A.米国および同盟国にとっての人的コスト
米軍の死者:2003年3月19日に戦争開始から2005年8月22日までの間に,米国軍人1866人を含む2060人の連合部隊が殺された.
1万4065人の米兵士が負傷した.このうち1万3523人(96パーセント)は2003年5月1日以降である.

請負業者の死亡:2003年5月1日の「主要戦闘終結」以来,255人の民間請負業者が死亡した.この中には91人の米国人が含まれる.

ジャーナリストの死亡;2005年8月28日までに,66人の国際メディアの労働者がイラクで殺された.このうち少なくとも11人の死亡について米軍には責任がある.この中にはABC,CNN,ロイター,BBC,ITN,アラブTV,al-Arabiya,al-Jazeeraおよびスペインのテレビ局Telecincoが含まれる.


B.セキュリティコスト
テロリストの補充と活動国務省によれば,2004年の「重大な」国際テロリストによる攻撃は655件であった.これは2003年の175件と比較して3倍である.イラクにおけるテロ事件は2003年の22件から2004年の198件と9倍に増加している.

軍の過剰散開:2001年以降,米軍はイラク戦争およびアフガニスタン戦争のために100万人を派兵している.この約3分の1,34万1000人は2カ国またはそれ以上の国で任務についている.2005年8月現在,軍の新兵補充は2005年の目標まで11パーセント不足している.予備役兵は目標まで20パーセント足りず,州兵は23パーセント不足している.

ファースト・レスポンダー不在によるセキュリティコスト:州兵と予備役兵の約4万8000人が現在イラクで任務についている.これはイラクにおける米軍総員のほぼ35パーセントである.彼らの派兵は,彼らの地元コミュニティにおける重い負担となっている.というのは,彼らの多くが警察官,消防士,救急隊員などの「ファースト・レスポンダー(第一応答者)」であるからだ.たとえば,44パーセントの警察では警察官をイラクにとられている.いくつかの州では非常に多くの州兵の不在が火事や他の自然災害時における不安を増加させている(これは8月31日に発表されおり,したがってカトリーナの被害が判明する前に書かれたと想定される--訳注).

民間軍事請負会社の利用:2万5000人の従業員を派遣している,少なくとも60の民間セキュリティ供給業者が存在していると国防総省は推定している.
アブグレイブ刑務所において発覚した44件の虐待のうち16件は民間請負業者が関わっていた.虐待スキャンダルにおいて多くの軍人が軍法会議にかけられたのに対して,民間請負業者は起訴されていない.


C.経済的コスト

現在までの費用:議会はすでに計2044億ドルにのぼるイラク戦争のための支出を認めている.さらに,2006年の春と予想されるもうひとつの補正予算が通過するまでの作戦をまかなうための453億ドルの「つなぎ資金」を審議している.現在までのコストは米国国民一人当たり727ドルであり,過去60年間のなかでイラク戦争はもっとも高くつく戦争となっている.

米国経済への長期的影響:2005年8月,現在のレベルでイラク戦争およびアフガニスタン戦争を継続した場合には次の10年間で連邦財政赤字は2倍に増加すると議会予算局は推定している.現在の推計によれば,イラク戦争のコストは7000億ドルを超える.

軍人家族への経済的影響イラクおよびアフガニスタンでの戦争開始以来,21万人以上の州兵と33万人以上の兵士が召集され,その平均任務期間は460日である.政府の推計によれば,予備役兵および州兵の約半数が軍務に就くことによって1年当たり4000ドル以上の所得を喪失している.約3万の小企業経営者が召集され,派兵によって経済的影響を被る犠牲者となりそうである.


D.社会的コスト

連邦予算と社会プログラムブッシュ政権の2006年度の予算--イラク戦争の支出をいっさい含まない--は国内支出に関して150以上の連邦プログラムを削減またはゼロにするという強硬路線を取りそうである.現在までにイラク戦争に支出された2044億ドルがあれば,次のような緊急に必要とされているサービスに振り向けることができた.4645万8805人の無保険者に対するヘルス・ケア,354万5016人の小学校の先生,2709万3473人の子どもに対する Head Start(貧困層の子どもに対する特別教育--訳注) ,184万1833軒の手ごろな住宅,2万4072校の新しい小学校,3966万5748人の大学生に対する奨学金,320万4265人の港湾コンテナ検査官.

軍隊モラルの社会的コスト:2005年5月までに,損切り注文(stop-loss order,この場合は任務が満期をむかえても,除隊させずに任務に就かせること--訳注)は1万4082人の兵士に影響を与えている.イラクにおける全部隊のほとんど10パーセントがこうした命令のために任務終了日が設定されていない.長期の派兵およびきついストレスは家族生活にまで影響を及ぼしている.2004年には3325の軍人家族が離婚している.これはイラクに対する侵略が始まった2003年と比較すると78パーセントの増加であり,2000年の3.5倍になる.

退役軍人ヘルス・ケアのコスト:2万3553人の退役軍人が2005年にイラクアフガニスタンから帰還し医療を求めると退役軍人省は予測している.しかし,2005年6月,退役軍人省長官Jim Nicholson はこの数は10万3000人に上ると予測を改定した.計算ミスによって2005年の退役軍人省の予算は2億7300万ドル不足することになり,この額は2006年には26億ドルになるかもしれない.

メンタル・ヘルス・コスト:2005年7月,米兵の30パーセントがイラク戦争から戻った後,3ヶ月から4ヶ月でストレスに関連した精神健康上の問題を抱えるようになり始めていると軍医は報告した.これまでに約100万人の米兵がイラクアフガニスタンにおける戦闘に従事しているので,最終的には10万人が精神健康上の治療を必要とすることになると予測する専門家もいる.


II.イラクのコスト


A.イラク人の人的コスト
イラク市民の死亡:2005年8月22日までに,2万3589人から2万6705人のイラク市民が米国の侵略および占領の直接の結果として殺された.しかし,実際の死者はこの数をはるかに上回るかもしれない.英医療ジャーナルのLancet誌は2004年10月,2003年3月から2004年9月までに9万8000人の「過剰死亡」を報告している.

イラク市民の負傷:The Project on Defence Alternatives は負傷者が10万人から12万人の間と推計している.

殺害されたイラク警察と治安部隊:Iraq Coalition Casualty は戦争開始以来,2945人のイラク軍および警察部隊が殺害されたと報告している.6000人が殺されたという報告もある.2004年12月までは1ヶ月当たりの死者は65人であったが,2005年には平均して155人,7月には1ヶ月で304人に達した.


B.セキュリティ・コスト
治安部隊訓練の失敗:2004年6月,国務省は14万5317人のイラク人部隊を訓練したと報告した.しかし1年後,国務省は追加的に3万5000人の治安部隊が任務についているだけと報告した.これらの部隊の装備状況については確認しようがない.2005年3月の会計検査院の報告書には「国務省および国防総省イラク治安部隊がどの程度必要とされている武器,車,通信手段および防弾チョッキを装備しているのか報告していない」と書かれている.

レジスタンスの勃興:4万人から5万人におよぶ死亡と逮捕にもかかわらず,レジスタンスは増加し続けている.イラクにおけるレジスタンス戦士は2003年11月の5000人から,2005年の「2万人未満」へと増加し,そしてイラク諜報部の長官は20万人以上の同調者がいると見ている.レジスタンス攻撃はここ4ヶ月で23パーセント増加している.自殺攻撃は急増している.2003年には20件であったが,2004年には48件,2005年の1月から5月では50件以上である.

犯罪の増加バグダッドの中心部の死体保管所における不自然な死因による死体は2003年には6012体,2002年の戦争前には1800体を数えたが,2004年には6012体であった.2005年7月だけで1100体が報告されており,2005年はよりいっそうひどくなることが明らかである.


C.経済的コスト
失業:失業率は20パーセントから60パーセントの範囲にある.大恐慌期の米国ではピーク時で25パーセントであった.イラク人の60パーセントまでが食料の無料配給に頼っており,平均所得は1980年の3000ドルから2004年の800ドルに下落した.

戦争商売人イラク復興の大半は,経験を積んだイラク企業ではなく米国企業によって受注されている.米国の会計検査官とメディアは数多くの詐欺,ムダおよび不適任を指摘している.もっともひどいのは,100億ドル以上を受注したハリバートンによるものである.ペンタゴンの会計検査官はハリバートンによる部隊への食料配布と駐屯地建設における18億ドルもの不適切な請求を見つけた.

イラクの石油経済イラク原油生産は米国による侵略以前の水準を下回ったままである.2003年,イラク原油生産は1年前の1日当たり204万バレルから133万バレルまで低下した.2005年7月,石油生産は戦前水準を下回ったままである.イラクはガソリンの半分,数千トンの燃料,調理用ガスやその他の精錬製品を輸入し続けている.


D.社会的コスト
電力:2004年7月下旬まで,イラクは戦前の電力レベルを上回って,国中でほぼ5000メガワットの電力を供給していたが,それ以降,改善することなく,2005年7月は4446メガワットであった.

健康イラク・国連の合同報告書が2005年5月に公表された.そこでは「戦争を直接の原因とする慢性的な健康問題を抱えて生活している人が22万3000人いると推定される.戦争が続く中で,以前の戦争よりも多くの子ども,老人そして女性が障害者となっている」と報告されている.

環境:戦争中,水道および下水システムは破壊され,数千発の不発弾が国中にばら撒かれ,もろい砂漠のエコ・システムは戦車と一時的な軍事基地によってダメージを受けた.戦後の略奪はさらにダメージをひどいものにした.3000バレルの核合成貯蔵物質が略奪され,5000バレルの化学物質がこぼされたり,燃やされたり,盗まれた.1200万の地雷と不発弾が今なお存在すると推定される.


E.人権コスト
米国のイラクにおける収容所の問題があったにもかかわらず,勝手気ままな逮捕が続いている.
平均収容者は,選挙の行われた2005年1月の7837人から,2005年6月には1万783人に増加し,2004年6月の5335人の倍になっている.米国は5000万ドルを使って1万6000人の長期収容者を拘束できるように3つの既存の施設を拡張し,さらに4つ目の施設を建設している.広範囲にわたる根拠のない逮捕によって引き起こされる問題を示しているのが,再調査の過程で逮捕された10人につき6人が起訴されることなく釈放されていることである.


F. 主権コスト
経済的・政治的主権:1月の選挙にもかかわらず,イラクの政治的・経済的独立は非常に制限されている.暫定政府はCPAのトップであったポール・ブレマーによって出された100の命令を破棄することがなかなかできない.命令の中でもとりわけ,イラク国有企業の民営化を許可した命令と再建事業の入札へのイラク企業の優先的参加の禁止を破棄することができない.

軍事的主権:現在のところ,米国は約106の基地で作戦を遂行している.2005年5月,米部隊はイラク北部,南部,東部および西部の4箇所の巨大基地に集中させる計画が報告されている.議会で審議されているイラク戦争に対する支出には,恒久施設建設のための2億3600万ドルが含まれている.


III.世界のコスト


A.人的コスト
イラクにおける兵士および請負業者の圧倒的多数は米国人であるが,英国,イタリア,ポーランド等その他の米国同盟「有志」の国からの194人の犠牲者が出ている.イラクへの関心の集中は国際的資源と関心をスーダンなどの人道的危機からそらすことになっている.


B.国際法の無能化
一国主義的な米国のイラク戦争開始の決定は国連憲章に違反している.それは,本物であれ画策されたものであれ脅威は「予防」されなければならず,軍事的に対応するためにあらゆる機会をとらえるという危険な先例を作ってしまった.
また,米国はジュネーブ条約に違反している.これは将来他国が民間人や捕虜の取り扱いにおいて条約で定められた保護を無視する可能性を高める.


C.国連の信用失墜
選挙ではなく占領軍によって作られたイラク政府に対する国連の承認を得ようとするブッシュ政権の努力は,国連憲章の基礎としての国家主権の概念全体を傷つけた.


D.同志の強制
国連安全保障理事会における反対に直面して,米国政府はいわゆる「有志連合」に参加するように他国政府に圧力をかけることによって,戦争が多国で支持されているかのような錯覚をつくりだろうと試みた.それだけではなく,世論の90パーセントが反対という国が連合に参加したことで,その国の民主主義も台無しにした.2005年7月半ばには,最初の「有志連合」45カ国のうち,米国に加えてわずか26カ国がイラクに部隊を派遣していたにすぎない.


E.世界経済のコスト
米国政府による戦争への支出額2044億ドルがあれば,発展途上国における飢餓を半分に減らすことができ,ほぼ3年分のHIV/AIDSの薬,子どもへの予防接種,きれいな水,下水設備をまかなうことができた.


F.世界の治安と軍縮の破壊
米国主導の戦争と占領は国際テロリスト組織を活気付けた.それはイラクだけでなく世界中のあらゆる場所で市民が攻撃される危険を高めた.

軍事支出の世界的増大:2002年の軍事支出は世界中で7950億ドルであった.イラク戦争で急増し,2003年には9560億ドル,2004年には1兆350億ドルと推定される.


G.地球環境のコスト
米国が使った劣化ウラン弾イラクの国土や水を汚染している.この汚染は必然的に他国にも広がる.たとえばひどく汚染されているチグリス川イラクを通って,イラン,クウェートに流れ込んでいる.


H.人権
司法省のメモは,(米国も締結国である)「拷問等禁止条約」に明確に違反しているにもかかわらず,合法であることをホワイトハウスに保証した.広く知られることになった米軍と諜報部隊によるイラク人収容者に対する虐待を合わせて考えれば,これは世界中の政府による拷問と虐待への新たな許可証を与えたと言える.